ずる休みのメソッド

少年少女らにとって
いかに学校を休むかは永遠のテーマである。

いかに学校を休むかというのは無論、
よくある不良生徒が
学校を無断で欠席するパターンではない。
私も含め、真っ当で純粋な子供たちは
学校を無断で欠席するなどという
先生にも親にも怒られることなど
とても実行できないだろう。

休んで怒られるなど、素人がすることだ。
休みのプロたちは、完全犯罪を目指す。

我々のゴールは、
おかんも先生も納得の上で
休みという形態を取ることである。

そういった意味で、
風邪を引いて、親に学校に連絡してもらう。
という極めて一般的な休みは、
マジで風邪を引いていること以外、完璧と言える。
風邪を引いていないにも関わらず、
マジで風邪を引いてる時と
全く同じシチュエーションを再現する。
これが、我々の使命である。

となると、障害はおかんだ。
おかんという障害を乗り越えるために
少年少女らは、数々の策を労してきた。
かくいう私も、おかんとイソップ童話にあるような
知恵比べを繰り広げてきた1人である。

我々にとって、風邪を引いていることを
最も効果的に証明するの方法は簡単だ。
体温計の数値が37.0℃を越えればよい。
ただし、当然ながら私の平熱は37.0℃ではない。
真っ当な人間ならここで諦めるだろう。

しかし、ズル賢い、というかバカな子供は、
この体温計の数値をいかに37.0℃に
持っていくかを考える。
そのための最もスタンダードな作戦が
体温計を暖めることである。

そのための方法は、先人たちが
長年苦労して編み出してきたものであり
おかんという最終関門をくぐるための
云わば秘伝の書である。
おそらく、おかん側の人間には、
想像もつかないくらい手が込んでおり、
いかにリアルな数字を出すかに
笑えるくらい無駄な努力と技術がある。

当たり前だが、病院に連れていかれては困るのだ。

全国津々浦々の少年少女のために
その方法は割愛するが、
同じく全国津々浦々の少年少女のために
殉職した例も挙げておこうかと思う。

ある人は、体温計の数値が
40.0℃というあり得ない数値を出したため、
保健室から追い出された。

またある人は、体温計が焦げた。

またまたある人は、
休むことには成功したものの
おかんのパートの時間を読み間違い、
友達と家でゲームをしていて、ふと振り返ると
後ろに鬼のような形相のおかんが立っていた。
あれは怖かった。
私はすぐに逃げ帰ったので、
彼がどうなったかは知らない。

私の例も挙げよう。

私の部屋には、昔ホンダの人から貰った
アシモのばかでかいぬいぐるみがある。
もう予想はつくかもしれないが、
私はそれと何枚かの服を自分の布団に入れ、
あたかも寝込んでいるかのように
見せかけて遊びに行った。

夕方、昼飯のチャーハンがそのままに
なっていることを不自然に思ったおかんが
布団をめくったらアシモの人形だったことなど
今となっては笑い話であるが
当時は死ぬほど怒られた記憶がある。


数々の闘いを繰り広げてきたが、
大学に入ってから、このようなことを
考えることも無くなってしまった。
休む連絡をする必要もなければ
休んだことで怒られることもない。
ただし自分が困るよ。

こうなってしまうと、
あんなに魅力的だった休むことが
不思議ともうあまり楽しくなくなってしまう。
ばれるかばれないか、
いかにして休みを勝ち取るか。
このような駆け引きがあったから
楽しかったのかもしれない。

どこかで子供が同じように
おかんとの攻防を繰り広げてるかと思うと
私は、わりと楽しかったりする。


ちなみに、私のおかんは
私のことを未だに病弱だと思い込んだままだ。
少年少女よ、検討を祈る。