40km 自由形

深夜、梅田駅より河原町駅方面行きの最終電車
終電車なのに乗客はわりと多い
彼らは大きく2種類に分けられる
酔ってない人 と 酔ってるやつだ
そしてその酔ってるやつはさらに
軽く酔ってるやつ と かなり酔ってるやつに
分けられる。僕と教授は後者の前者だ
つまり、軽い酔っぱらいだった


乗り込んだ車両には、
いすに寝転んで寝てるやつ と
ドアの前の地べたに寝転んで寝てるやつ がおり、

『あいつらやべーな』

『今ビアガーデンやってますもんね』

と二人して言いながら見ていた。


電車での眠り方のオーソドックスから外れた
椅子で寝転んで寝息を立てている彼は
完全体である体全てを乗せる形の
いわゆる棺桶スタイルではなく、

眠って隣の女性にもたれ掛かったところ
彼女が鮮やかにかわしたことにより
足をそのままに上半身だけを横にして
浜辺に打ち上げられたアシカのような
見事な体勢で眠りについていた。


一方、電車の地べたを
自宅のカーペットと化すだけでなく
ここからは通さんぞと言わんばかりの
ドアの前を平行に遮るという
他の電車眠りたちの追随を許さぬ
トリッキーな技を決めて寝ている彼も
そして、そんな彼を一瞥してから
軽やかに跨いでいく乗客たちもまた
見事としか言い表せないものであった。


座席で眠りについている彼は
僕らの対面に座っており、その彼の前には
先程、鮮やかに彼の頭をかわした女性が立っている
ふと、彼の方を見ると、
彼の物らしきICOCAが足元に落ちていたが

『あいつのかな?』

『絶対あの人でしょ』

『あれ後で困るやつだね』

『拾うには微妙な距離ですねー』

『やめとけやめとけ』

つって相変わらず動きたくない我々は
彼らの観察を続けていた。


『学生かな?』

『こんな酔いつぶれる社会人いますか?』

『それもそうだな(笑)
でも、日本って平和だねー
普通なんか取られるよ、こんな爆睡してたら』


しばらく不毛なやり取りをしていたら
ドアのステップと化した彼に
どこからともなく現れた男性が近づき、
彼を揺り動かして、『大丈夫ですか?』
と言って起こし、彼をドアのステップから
こんな仏像ありそうみたいなあぐらの体勢に変え、
足の隙間にペットボトルの水を置き、
そうして足早に隣の車両へと消えていった。


『あいつかっこいいな』

『いやー、僕もあんな社会人になりたいです』

『起きたおかげで、顔見えたけどあいつ結構歳いってるぞ(笑)』

『じゃああんな社会人にはならないです。』

『まだ寝てるし(笑)』


男性に触発されたのだろうか
今度は椅子に打ち上げられている彼のICOCA
前に立っている女性が拾いあげ、
落ちないように巧みに頭と椅子の間に挟み
これまた、何事もなかったかのように
再び電車の揺れと同化した


『なんか、本当日本っていい国ですね』

『そうだね』


終点につくと、
彼らを横目に次々と人が降りていく

『つきましたよ』

と言って前の彼を起こしてみるけど
白雪姫かな?っつーくらい起きなかったし、
教授がやめとけってうるせーので
点検に来た車掌さんにバトンタッチ
どうやら阪急電車1泊は避けられたらしい


改めて思うと、
あの異様な二人に何一つ関心を示さず
黙って座ってた乗客も
おそらく大声で実況してた僕らも
困っちゃうよねって笑ってた乗客も
この日この電車の車両に乗った人は
何かしら酔ってたような気もする


ともあれ、深夜の最終電車
これから社会人になると仕事に疲れて
乗る機会も当然あるだろうけど
こういう見習うべき光景がまた見れるのなら
悪くないかもしれない


教授は見習わねぇ


A~C~♪