私からのリレー

カムチャッカの若者が
キリンの夢を見ているとき
私は朝、泣いている彼女を見ていた。


「仕事に行こうとすると体が震える」

 

「・・・・会いたくて?」

私が精いっぱいの健気さで出力した言葉は
瞬く間に常闇の中に消えていき、
部屋にはすすり泣く声だけが響いている

 

私の会社の同期にも、精神的な病で
仕事を休職している人は
何人もいるし、彼女の友達にもいる。

働いている人であれば、
皆誰しもがいつ心を病んでしまっても
おかしくはない。

そう思ってはいても、
いざ身近な人がなった時
何を言えば正解なのか分からなかった


季節は春で、気温も暖かくなり、
寝室の窓からは、陽の光が差し込んでいる。
パスコの超熟のCMのような背景で
何もこんな超鬱の話をしなくてもいいじゃん


ああ神様、どうか私が
世界中の鬱な気持ちを集めて
操気弾!つって彼女を苦しめる
会社の使えない派遣社員共に
ぶつけてやれますように。

私が頭の中で必死で
励ましのフレーズをあさっている間にも
容赦なく追撃が来る。。


「どうすればいいかな?」


わお、俺が決めていいのそれ?


もうね、追撃のスピードと
重みが半端じゃない。
獅子連弾くらいのレベルで
追い打ちかけられる。

言葉受けた時の効果音が「ドゴ!!」だもの
心の中のカカシ先生が、
かろうじて初撃を受け止めた俺に
甘いなつってる。
そしてどうでもいいけど、
獅子連弾って一発変換できるんだね。


「聞いてる?」

3撃目

 

あの~~~
どうすればいいかってことだよね。うん。

どうすればいいかって
それは、もう会社休むというか
辞めるしかないじゃないの?
と思うわけで、逆に俺が仕事やめよつって、
すぐに辞められるんだったらいいけど、
本人の人生の選択は、
本人じゃないとできないし

「とりあえず、今日は会社休んで、
 上司に相談しな」

っていう模範解答例みてーな回答を出して
私は会社へと向かったわけです。




あぁぁーーーーーーー空が青いなぁぁぁぁぁ


 

 

そっかぁぁぁ、うつになっちゃったかぁぁぁ


 


本人もね、十分お辛いんでしょうけど
あのね、私の方もつらい。
今なら血の涙とか出そう。
天照(アマテラス)使えるぜこれ。
出勤しながらいろいろ考えたんですけど、
もう全然状況が整理できなくって、
仕事も何もテニツカズで

昼休みに連絡しても、全然返事が来ない
まさか死んでないよな・・
つって不安に潰されそうになりながら
お客さんとの打ち合わせをして、
車ぶっ飛ばして帰って
横になっているのを見て、安心して
でも、帰って一緒にご飯を食べてても
全く笑わず、ずっと泣いていて
ようやっと絞り出した言葉が「ごめんね」

あ、やばい。これ俺今何食ってんだっけ
肉じゃがじゃなかったっけ、
ヒレカツとかだっけ
「ごめんね」って、そんな
カロリー高い言葉だっけ?
フォント違くない?
そんな芥見先生の「領域展開
みたいなフォントの文字だっけ


抱えこめんと、私一人では抱えこめんと、
そう思ったわけです。


今後家を優先させることも
出てこざるをえないので
私の会社の上司にも相談。


大変有難いことに、
仕事なんてどうでもいいから
彼女を大事にしてあげなと。

うおおおお、一生ついていくぜ!
と思ったのもつかの間、何でしょうね。
その、あなたがしっかりサポートしてあげな
トークがね、
結構くどい味付けで来るっつーか、、
しつけーっつーか。。。
5回も言ってこないでいいっつーか。。。。

やれ病院に行った方がいいとか、
薬は副作用がどうとか
こういう風に声掛けしてあげればいいだとか
仕事なんかやめたって何とかなるから
早く辞めさせてあげな
とか。。。

いや!ありがたいんですよ!ほんとに
ありがたいんですけど、あら、何かしら
急激に気持ちが冷めていくわ


周りの人がサポートして
あげなきゃいけないからさー
つってるのを、
ならあなたがその周りの人になってよって
思ってしまって。

共働き家庭から、1馬力家庭になることで
我が家の経済事情は
実質半分になるのだけれども
あなた支えてくださるの?つって
俺の中のUQUEENが暴れだしてしまって
そっくりさんです!つってんだけども
やばいやばい!
もうダークサイドに落ちる落ちる!つって

最後には、キャバクラの店員のごとく
薄っぺらい声の抑揚と高さで
「そうですね~。
 アドバイスありがとうございます~」
つって強制終了。



おかん
「彼女も心配やけど、
 あんたの方も病まんか心配やわ」



やっぱこういう時、
おかんってのは流石ですよね。
支える側だって、十分不安だし
ストレスかかるわ!
って暴れていた私の中のジョーカーが
ものの見事に鎮火。


彼女のおかんからも、怒られるかと思ったら
あなたも大変やのにごめんね。よろしくね
と言って頂ける始末。






さあ、今日もこのエレベーターを上がって、
少し歩けば、私の家の玄関だ。
扉の先の彼女は
泣いているのかもしれないし、
泣き疲れて眠ってしまっているかもしれない



私は、先ほど薬局で買ってきた
保湿用のパックを取り出す。




ただいまーつって帰ってきた彼氏が
保湿用のパックをつけている。
私だったら  面白い  そう思う。



無くなった笑顔を取り戻すために、
今日も私は新しいネタを携えて
この扉をくぐるのだ




いつか将来の私が当時を振り返れるように
今この瞬間の気持ちをここに記す