スタンド・バイ・ミー社会人

この道を行けばどうなるものか 
危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし 
踏み出せばその一足が道となり 
その一足が道となる 
迷わず行けよ 行けばわかるさ
(アントニオ猪木)


巷で言うレールの敷かれた人生というものが
もし仮にあるとするのであれば、
私の人生はレールの上を走っているのだろうか

小中高大学と来て、運良く拾ってもらった
会社で営業として働くこと早4年と半年

このままでいいのか
このままでいいのか
かと言って、何がしたいのか
このレールはどこへ続いているのか
というかレールって何だ


自己への問答を繰り返し
煮詰めに煮詰めた私の自我は
さながら、白雪姫の魔女が煮詰めていた
謎の緑の液体のごとく
ドロドロの物体と化している



朝8時30。会社つくと早々
横に座っている上司が
二日酔い?二日酔い?と聞いてくる

二日酔いではないし
私は、朝あまり人と会話したくないので
軽く無視をして席に座る。
正面に座っているベテランの先輩が、
今日も飲みに行っちゃうんでしょ?
と絡んでくるので、それも鼻で笑って流す

9時を過ぎると、色んなお客さんから
電話がかかってくる。

それ来たと言わんばかりに
あれやってくれ、これやってくれと
言われるものを順番に捌いていく
最近は、コロナや半導体やらで
納期の調整が多い

技術や運輸の調整、お客さんとの調整
仕事のほとんどは、調整作業かもしれない


しばらくすると別の若い先輩から
電話がかかってくる

「ごめん!ちょっとこれお願いできない?
 ビール1杯で!」

最近、私にお願い事をしてくる人たちは
みんなビール1杯を対価としてくるのは何故?

その先輩は、私なんかよりずっと優秀だけど
繊細なあまり、以前病んでいたことがある。
そのこともあって、当時の先輩の仕事は
今私が担当しているが、
先輩は相変わらず忙しそうだ。
忙しそうだし、忙しくて死にそうだと
よく周りにこぼしている

もう引き継ぎから2年以上経つけれど
この先輩と引き継いだ案件の話をしたことはない

最近、後輩も引き継ぎにより
とても忙しくなった。おじさんたちは、
必死に後輩がやめないようにフォローしている

ふと横を見ると、上司がガチャガチャで
獲った謎のフィギュアを組み立てている
これあげる!と言われて
いらないけれど、とりあえず貰う


時刻は、17時前。ようやく定時が見えてきたが
お客さんから依頼された宿題が終わらず
とりあえず今日やることの目標を考える

ちょっと今日は、早く帰るね!
つって上司が定時で帰っていく
週に2回は、飲みに行ってるようだ。
しばらくすると、自分の部署で残っているのは
若手だらけになっている


明くる日、私は、別の部署の同期と
二人で居酒屋にいた。

「何で俺がこんなに目標高く設定されてて
 達成できるか分からんのに、
 おっさんらは低い目標設定でやってんの?」

彼も同期なのにすでに部署で
一番の実績を積み上げている

「こんだけ働いてんのに、給料おっさんらの
 方が高いってどういうこと?」


家に帰ってまた問答してみる。

私は、歩合制のような会社で
同僚と競い合いながら
バリバリ稼ぎたいのだろうか・・・

その世界を想像すると、
気分が悪くなってきたので
どうやら違うようだ。


ベテランの先輩も、恐ろしく
仕事が早いだけでとても忙しそうだ。
最近は、よくその先輩と飲みに行く

会話は、もっぱら部署の人たちが
忙しそうという話だ

(・・・私だって忙しいし、
その忙しい人たちがやってる量
よりもきっと忙しいのに)


自己への問答を繰り返し
ドロドロに溶かしたと思った鍋の中から
たまに固形物が出てくる

だけど、それをベテランの先輩に言うには
あまりに重い話になってしまう
しまうし、私よりもこの先輩の方が
きっと何倍も忙しい

そうして出てきた固形物を
すり潰してまた鍋で煮込むのだ



あー、もう仕事やめよっかなぁ
楽しくねぇし
頑張ってても特に評価もされねぇし
金もあがんねぇし
おっさんはあんまり働かねぇし
林遣都だって、動くなら今だつってるし



(別の日の飲み会)

上司・ベテランの先輩
「そういえば、まだお前5年目なんやね
 いやぁ、お前はよくやってるよ!」


・・・・・・



「自分のやりたいことは何だ」とか
「レールの上の人生」だとか言いながら
結局、私達はただ褒められたい
だけなのかもしれない